一人で暮らす95歳の祖母は、CS時代劇専門チャンネルを見るのが生きる糧である。
ある日、そのチャンネルが見られなくなった。
単に、テレビが別のチェンネルに切り替わっただけのことだが、祖母にとってはあり得ない出来事だ。
時代劇チャンネルが、いつの間にか、現代ドラマばかりやるようになっているのだ。
チャネルの方針が変わってしまい、もう2度と時代劇三昧の生活が送れなくなってしまったと思った。
生きる楽しみを奪われて、気持ちはどん底だ。
チャンネルを合わせ直せばいいじゃないか。
95歳にもなると、常識は通用しない。
リモコンをいろいろ触って試してみたんだろうが、
目は見えない、耳は聞こえない、足元はおぼつかない、思考も遅い。
異次元を生きているようなもの。
たったそれだけのことができない。
しかし、自分の難局を打破するために行動するパワーはあった。
あたしが電話で時代劇チャンネルはなくなっていないことを伝えると、
祖母は「チャンネルに電話してみる」と言った。
近くに住む母(祖母の娘)に頼ればいいじゃないかと提案したが聞かない。
祖母はそそくさと電話を切った。
普段の電話でもよく聞き取れずほとんど会話にならない祖母の耳で、
カスタマーセンターに電話してどうにかなるのだろうか。
電話口でどうにもならず、さらに落ち込み、時代劇が見れないことに涙をながしているのではないだろうか。
再び祖母に電話をした。
話し中。
20分ほどして再度電話をしたら、つながった。
祖母は嬉々とした声で「大丈夫だったよ!」。
曰く、カスタマーセンターで対応してくれた人がとても丁寧に教えてくれて、
チャンネルを再び合わせることができたとのこと。
今は、大好きな「暴れん坊将軍」を見ていると。
祖母はとてもいい人だったと感謝の念で一杯でそれはそれはよかったが、
窓口の方はどれだけ大変だっただろうか。
奇跡を感じるとともに、孫としても感謝。
とにかく、祖母は悪戦苦闘して、自力で困難を乗り越えた。
あたしと電話する前に、お友だちに電話したていたようだし、
カスタマーセンターの窓口の人にも難しいコミュニケーションだったろうし、
周りに迷惑をかけただろうが、やりきった。
ナイスファイト。